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とある大学教員の仕事

ふと思い立って,今週どんな仕事をしたか書き出してみようと思いました.私は大学の工学系教員です.大学教員はヒマ,やりたいことしかやっていない,社会性がない,オフィスに閉じこもっている,というようなイメージがあるかもしれませんし,実際に言われたこともあります.どんなことに時間を使っているのでしょうか.時間はきちんと測ったわけではないのですが,そこまで間違ってないと思います.

教育(20 時間)
授業,授業準備,オフィスアワー,学生のメール対応,新規授業の開発

教員と言えばまず思い付く教育関係ですが,私は今学期は学部生の授業を担当しています.教室で実際に授業する,その準備をする,オフィスアワーで学生の質問,雑談,進路相談に乗るなどします.講義の前には準備をして,新しい学生実験を課す場合は予備実験をして,新しい内容を教える場合は新規の教材(スライドやプリントなどを作ります).講義に参加している学生対応もします.授業に来られないから内容を要約して説明して欲しい,テストの日に予定があるから別の時間でやって欲しい,いろいろと個別の連絡が来て対応します. クラスのホームページをアップロードします.宿題を作ります.テストを作ります.採点をします.推薦状を書きます.
研究(20 時間)
勉強,論文執筆,プレゼン発表

理工系の大学教員なので,研究することが主な仕事です.これは一般のイメージに合うかわからないのですが,教員になると自分で実験を行う時間を取るのが難しくなり,チーム(研究員や大学院生)と一緒に成果を出します.そのチームを研究室あるいはラボと言います.ラボメンバーと定期的に打ち合わせして,研究結果の報告を受け,フィードバックをして,これからどうするかの議論をします.結果が出たら打ち合わせを重ねて論文にします.学会発表,小さな研究会での発表をします.他の人の書いた論文や教科書を読んで勉強します. 別の研究者が書いた論文の査読をします.同じ研究分野の人で集まって,学会をオーガナイズすることもあるので,打ち合わせをします.
研究室運営(40 時間) 
資金調達,人事,広報

研究室を運営するための様々な仕事をしています.一番大事なのが資金調達,研究費申請書を書いて応募します.一次審査に通ったら,プレゼンに行きます.そのための資料を作ります.幸いにも研究費を受け取ることができたら,半年か1年に一度書類を作って報告します.資金提供をする機関と信頼関係を築きます.公的機関から受け取った研究費は,税金ですので,様々な制限があります.もともとの使途の予定通りにお金が使われるように気を配ります.

チームですから,チームメンバーを探さないといけません.新しいプロジェクトを始める場合,研究者募集をします.応募者の CV を見て良い候補者を判断します.Skype で面接して判断します.オファーを出す場合も,お断りする場合も,研究室の主宰者である自分が話します.実験をする際には,装置・機器が必要です.購入する際に,選定して,業者との値下げ交渉をすることもあります.税金ですから公正に使われているという説明責任がありますので,高額の機器の購入には所定のプロセスを経ます.そのために長い作文をして,入札された見積もりを評価する長い作文をします.

研究室の成果を広報します.ラボの HP をアップデートします.プレスリリースの草稿を書きます.大学の PR 部門とやり取りして,原稿をチェックします.公開されたものを確認もしています.連絡があれば対応します.
大学運営(5 時間)
大学・学科の仕事,アウトリーチ

大学という組織で働いているので,所属組織のための仕事があります.所属学科内での委員会があります.学科としての教育プログラム,研究プログラムを評価したり,見直したり,新しいものを提案し,場合によっては立ち上げます.学科の方向性に見合うような,大きな研究費の申請の計画をします.地元の高校に赴いて,大学のプログラムの説明をします.国際学会に合わせて訪問国の大学を訪れて,大学院生の募集をします.地元の高校生のサイエンス大会の審査員を務めます.
その他(人による)
私は現在 Assistant Professor という立場ですが,職位が上がると,大学運営の仕事や国の仕事などが増えそうです(混乱を極める気がします).大学運営の管理的な仕事をします.学科運営の責任者として大学レベルで学科間の調整をします.学科としての数値目標(学生数,獲得研究費)を達成する必要があります.国の仕事としては,研究費申請書の査読だとか,国の科学技術政策関連の委員会に参加するようなことが考えられます.メディアに出る人もいますし,会社の顧問としての仕事がある人もいます.今みたいに思い付いてブログを書くときもあります.しかし,誰もが週 168 時間しかないので,何かを加えることは何かを削ることです.家では娘と遊びたいです.

以上,ざっと思い出した内容です.ぐわっと書いてみたら,今週に実際行ったかという観点より,もう少し広い業務内容になりましたが,1年スパンでみたら全て含まれると思います.時期によりますので割合も変わりますが(例えば担当授業がない期間は研究時間が増えます),週 80-90 時間くらいは何かしていると思います. 私個人の業務効率の問題もありますので,絶対的な労働時間について何か言いたいというよりも,仕事の内容と時間配分割合(エフォート)について述べたいと思いました.

ところで大学の教員に応募する際は「研究ができる」能力を選考されるのですが(もちろんそれだけじゃないですが,大事な必要条件です),実は着任してからの仕事は多岐にわたっています.私は自分で手を動かすのが好きでこの職業を選んだのですが,今の立場ですと,そのような時間も取りづらいです.研究そのものには3割の時間を使えればよいくらいです.実際には「研究室運営」という形で,チームが研究をするための環境を整えるという仕事が大半なのです.もちろんそれもチームで研究をする面白さはあり,やり甲斐,知的好奇心など満たされますが,自分が研究員として研究をするのとは異なります.これは自明なのかわかりませんが,研究と教育は大きく異なる能力が求められるし,研究室の運営に至っては更に別の能力が求められます.さらに言えば,研究ができることと,研究費が取れることも別の能力です.全部できる人もいれば,どれかが得意な人もいます.

世の中の多くの人にとって,大学って何をしているのと聞かれれば「授業してるところ」なんじゃないでしょうか.実情は「授業」は1年を通した教員のエフォートで言えば,理工系教員で研究をしている人は 10% くらいかと思います.大学はもっと魅力的な授業を,とか,先端技術の社会実装を,と言う要望があると思います.もちろん教員がそれに働きかける立場にいるのは間違いありません.一方で現在の教員のエフォート分配を鑑みて,何をどれだけ求められるかということに対して,現実的になる必要があるとも思います.今あるものに何かを加えたい場合,何か他の業務を削ったら良いでしょうか.あるいは現在の業務効率の改善で時間を捻出できるでしょうか.他には,大学の役割・教員の役割は何か,優先順位は何か,という問いに一定の共通理解があることが大事じゃないでしょうか.私は大学の中核業務は「研究」と「研究を通じた教育」だと思っています.職業教育をするなら専門学校と呼べばいいし,先端技術の社会実装をするならベンチャーと呼べばいい.そういう活動の重要さを否定するわけではなく,それぞれに名前があるのをぐちゃぐちゃに混ぜる必要はないのです.この点が最低限保たれないなら,私は大学で働かなくても良いと考えています.私の意見が世の中に受け入れられるかは別にして, 大学の役割がはっきりしてないと,何をやっても不満を感じる人がいて,大学は不要だと言われ続けるしかありません.でもこれって,ゲームのルールとして不公平ですよね.あれもやれ,これもやれ,では中の人が疲弊するだけです.極めて普通のことを言うと,目的・役割が決まっているからこそ,結果の評価をすることに妥当性があるはずです.

いつもながら最後は発散する駄文でしたが,世の中の人は大学に何を求めているのでしょうか.私はとある一教員ですが,私の時間の使い方は,世の中の人が望む大学の在り方に沿ったものなのかということには興味があります.


余談ながら,私は世の中にある様々な仕事で,どんなことにどれだけ時間が使われるものか見当も付きません.医者って患者見てないときに何してるの?高校の先生は授業・部活をしていないとき何してるの?世の中は知らないことばかりです.世の中の人が週 168 時間をどのように割り振ってるのか知りたいです.